プレアビヒアという天空の寺院。タイとの国境紛争も発生したカンボジア世界遺産の観光。

プレアビヒアの断崖から見える景色

(プレアビヒア寺院の中央奥にある断崖。カンボジアの大地を見晴らせる)

プレアビヒア寺院(Preah Vihear)とは、アンコール遺跡群に続いて2008年に世界遺産登録されたカンボジアのヒンドゥー教寺院です。

プレアビヒア寺院は、カンボジア北部プレアビヒア州のダンレク山地という、カンボジア・タイ・ラオス国境に広がる山地内、高さ約525m(海抜約625m)の断崖の頂上に位置しています。

シェムリアップからプレアビヒア寺院までのMAP

シェムリアップから寺院までのアクセス所要時間は、車で片道約4時間(距離は約220km)。

シェムリアップからプレアビヒアまでは距離があるため、往復のアクセス所要時間と参拝時間を合わせると、観光に1日を費やします。

時間はかかりますが、プレビヒア寺院へはカンボジアからしか入ることができないので(2018年3月現在)、シェムリアップ旅行中に観光するのが一般的です。

プレアビヒア寺院とシェムリアップ市街の間には、ベンメリア(Beng Mealea)やコー・ケー(Koh Ker)といった他の人気遺跡も点在しているので、これら寺院も合わせて回れば効率的に時間を使えるでしょう。

今回の記事では、プレアビヒア観光を予定している人に向けて

  • プレアビヒアの概要・タイとの領土問題
  • プレアビヒア観光の魅力・見所
  • シェムリアップからのアクセス方法と交通費
  • 観光にあたっての注意点

を記載していきます。

プレアビヒアはカンボジア遺跡群の中では特徴的で、シェムリアップ郊外にある遺跡の中では取り分けて人気です。

プレアビヒアの石階段

(国内外問わず観光客は多い。日本人も見かける)

別名で「天空の寺院」と呼ばれるように、寺院敷地内の断崖(地上550m)から見晴らすカンボジアの大地は圧巻です。

こうした特徴的な立地にあるカンボジア遺跡はプレアビヒアだけなので、是非訪れてみてはいかがでしょうか。

プレアビヒア寺院(Preah Vihear)

プレアビヒアの第五塔門

(プレアビヒア寺院内の中央祠堂しどう。寺院内は所々で崩壊が進んでいる)

プレアビヒアの建設は893年頃、ヤショヴァルマン1世という当時のクメール王が統治していた時代に始まりました(アンコールワット建設開始は12世紀初頭。アンコールワットより古い)。

今日見られる寺院内の大部分は、後のクメール王スーリヤヴァルマン1世(1010年〜1050年)とスーリヤヴァルマン2世(1113年〜1150年)統治時代に増築され完成したものであるとのこと。

寺院創設の目的はヒンドゥー教の神「シヴァ神」に捧げるためであり、須弥山しゅみせんという古代インドの世界観における世界の中心地のイメージを取り入れた造りになっています。

参考 須弥山Wikipedia

プレアビヒア寺院は今日のカンボジアにとって、文化的・精神的に非常に重要な価値を持つ遺跡であることが至る所で伺えます。

プレアビヒア寺院が位置するプレアビヒア州の州名は同寺院にちなんで付けらました。また、寺院内の第一塔門は、カンボジアの紙幣2000リエル札の絵柄になっています。

プレアビヒアの第一塔門

(プレアビヒア寺院内の第一塔門。この時は修復のための足場が組まれていた)

2000リエル札

(2000リエル札。上写真の第一塔門が絵柄になっている)

また、プレアビヒア寺院には、国境を接する隣国タイとの紛争を経て、2013年11月に国際司法裁判所より正式にカンボジアの領土であることが国際的に認められた歴史があります。

こうした背景も、プレアビヒア寺院がカンボジアにとって国民精神を支える要素となっているでしょう。

タイとの国境紛争

(プレアビヒアを警備しているカンボジア軍)

プレアビヒア寺院は、国際司法裁判所より正式にカンボジア領であると認められる2013年まで、100年以上もの間タイとカンボジアにおいて議論の対象となっていた場所でした。

この問題には、様々な歴史的背景が複雑に絡み合っています。

先述したように、プレアビヒアは元々893年頃にクメール王朝(カンボジア人)が造った寺院です。

しかし、時を経てクメール王朝の勢力は下降。それに伴いタイ(当時はアユタヤ王朝)が勢力を広げる過程で、1431年にクメール王朝を攻略。以降、プレアビヒア寺院はタイの領土となりました。

最終的にタイ(アユタヤ王朝)もミャンマー(ビルマ)によって滅亡に追い込まれるのですが(1767年)、新たなタイ王都(トンブリー王朝)がバンコクを拠点にして支配域の回復・拡大を図ります。

トンブリー王朝を経て、タイの現王朝であるチャクリー王朝(1782年誕生)は更なる対外拡張政策を推進。1809年頃には現在のラオス・カンボジア・ミャンマー南部にまで領土を拡大しました。

(1809年当時のタイの勢力図。ラオスとカンボジアに至ってはほぼ全域を勢力圏としていた。近代においてカンボジアにとってのタイは宗主国そうしゅこくであった)

ところが、1867年〜87年にかけてカンボジアはフランスのインドシナ領地に組み込まれ、フランスの保護国となります。

フランスからの圧迫を受けたタイは、1867年及び1907年にカンボジアの殆どをフランスに割譲かつじょうします(同時期にラオスも。そしてタイ領土は現在の版図はんととなる)。

この時、タイとフランスの間では、タイ・カンボジア間の国境は山脈における雨水の流れ目(分水嶺ぶんすいれい)に従うものと条約を結び、完成した地図ではプレアビヒア寺院はカンボジア側に位置していました。

ところが、タイは1934年に実施した再調査で、国境線と分水嶺の不一致および寺院がタイの領土内に位置することを発見。「分水嶺に従うのであればプレアビヒアはタイの領土ではないか」との声をあげ、警備兵を派遣します。

お互いに譲らないタイ・カンボジア両国の緊張と混乱は高まります。プレアビヒア寺院は観光資源としての価値が高いので、両国とも絶対に手にしたかったのでしょう。

カンボジア側は次なる一手として、2008年にプレアビヒアを”カンボジアの”世界遺産として登録するよう、ユネスコの世界遺産委員会に申請し登録されます。

これにタイの政治団体や市民団体が猛反発。

最終的にはタイとカンボジア両国が国境付近に軍隊を派遣し、軍事衝突が勃発。2008年にはカンボジア兵2名が死亡、タイ兵7名が負傷、更に2011年の衝突では民間人まで死者・負傷者が多数発生しました。

現在のプレアビヒア寺院

カンボジアの危険情報

外務省の海外安全ホームページにおけるカンボジアの危険情報。現在は、全土に渡ってレベル1「十分注意してください」と掲載されている)

2013年には寺院周辺の土地を含め、プレアビヒアがカンボジアの領土であることを国際司法裁判所が正式に認めたことにより、両国軍は撤兵しました。

参考 世界遺産プレアビヒア一帯はカンボジア領、国際司法裁判所国際ニュース:AFPBB News

現在では、一般観光客も足を踏み入れられる安全な観光地として認識されています。

とは言え、いつ紛争が再勃発するか分からないので、訪問予定前には必ず外務省の海外安全ホームページを確認しておきましょう。

プレアビヒア寺院の観光

プレアビヒアの第三塔門

(プレアビヒア寺院の第三塔門)

プレアビヒア寺院の敷地は南北800mに伸びていて、北側から南側へ向かって四つの塔門が順番に並んでいます。四つ目の塔門の奥には中央祠堂があります。

北側の第一塔門から南側の第四塔門までは約100mの標高差があり、石段を登りながら各塔門を見学していくイメージです。

プレアビヒアの石段

(第四塔門前。石段があるが、そこまで急ではない)

中央祠堂を超えた先には、カンボジアの大地を見晴らせる断崖絶壁が続いています。

プレアビヒア寺院のMAP

遺跡の規模は他のアンコール遺跡群と比べると大きくはありません。くまなく見て回っても観光所要時間は1時間くらいでしょう。

 

プレアビヒアの内部

カーラのレリーフ

プレアビヒア寺院の内部。各塔門には綺麗なレリーフが残されています。上写真のレリーフはカンボジア遺跡ではお馴染みの神カーラ。

 

プレアビヒア 中央祠堂前の石段1

プレアビヒア 中央祠堂前の石段2

中央祠堂前の石段

 

プレアビヒアの中央祠堂1

プレアビヒアの中央祠堂2

中央祠堂。かなり崩壊が進んでいる部分もあります。

 

中央祠堂内部

遺跡内には通路も多くて、ちょっとした散策を楽しめます。

 

個人的な感想としては、アンコール遺跡群をすでに回った人であれば、プレアビヒアの遺跡自体にはそれほど大きな感動は抱かないのでは?と思いました。

規模が大きいわけではないですし、遺跡に対する深い知識と関心がなければ、アンコール遺跡群と比べて見劣りするでしょう。

やはりプレアビヒア最大の見所と魅力は、中央祠堂を越えた先にある断崖から見えるカンボジアの大地です。

断崖から見渡せるカンボジアの大地

中央祠堂を越えた先には、断崖が広がっています。

プレアビヒアの断崖

頂上から見える景色

頂上から見える景色

断崖からの景色は本当に素晴らしく、この景色を見ただけで「ここに来て良かった」と思えました。

この景色はプレアビヒア観光最大のハイライトです。プレアビヒアに来たら絶対に拝みましょう。

北側にはタイとの国境がある

プレアビヒアの急な石段

第一塔門より更に北側の急な石段を下って行くと、その先にはタイとの国境があります。

カンボジアとタイのプレアビヒア領土問題による緊張感が高まる中、一時期はタイ側からもプレアビヒアへの参拝を可能としている時期がありました。

この急な石段は、タイ側からプレアビヒアを参拝する時の入り口でした。

タイ側からのプレアビヒア入り口

(タイ側からのプレアビヒア入り口。クメール語と英語で書かれた看板が立っている。恐らくタイ側からの参拝が可能な時はタイ語の看板も立てられていたのだと思う)

プレアビヒアの看板

入り口には「Preah Vihear is Our Temple」プレアビヒアは我々(カンボジア)の寺院だと書かれた看板が立てられています。

 

タイとカンボジアの国境1

タイとカンボジアの国境2

階段を降りたら土産物屋を過ぎ、警備小屋の脇にある橋を渡ると、奥に国境が見えます。

 

プレアビヒアにあるカンボジアとタイの国境

国境と言っても、イミグレーションのような建物があるわけでもなく、ゲートとその手前に何重にも巻かれた有刺鉄線があるだけの地味な場所です。

確かにこれだけ有刺鉄線が巻かれていたら、侵入は無理だろうなぁという印象。

ちなみに、国境付近には警備員がいるので、ふざけて国境ゲートを登ったりすることはできません。

シェムリアップからプレアビヒアへの行き方

冒頭でも記載したように、シェムリアップからプレアビヒアまでは車で片道4時間ほどかかります。

そのため、街中でトゥクトゥクを捕まえて「今からプレアヒビアに行けますか?」と聞いても当日に行くのは断られます。

前日からトゥクトゥクをチャーター予約するか、ツアーを利用して行くのが一般的です。

トゥクトゥクをチャーターすると言っても、さすがに往復8時間もトゥクトゥクに乗ることはできないので、正確にはトゥクトゥクではなくトゥクトゥクドライバー(あるいはドライバーの友達)の車で向かいます。

チャーターする場合もツアーで行く場合も、プレアビヒアは遠いので、スケジュールとしては早朝6:00頃にホテルに迎えに来てもらうことになります。

トゥクトゥクドライバーの車で行く

トゥクトゥクドライバーの車

前日からトゥクトゥクドライバーにプレアビヒアに行きたい旨を伝えておけば、車で連れて行ってくれます。

ただ、冒頭でも述べたように、プレアビヒアを観光するだけで1日使うので、シェムリアップとプレアビヒアの間に点在するベンメリアコー・ケー遺跡も一緒に回ると効率的です。

ベンメリアの内部

(ベンメリア。「東のアンコール」と呼ばれる巨大な遺跡。人気観光スポット。入場料金は5USドル)

コー・ケー遺跡1

(コー・ケー遺跡のプラサット・トム。7段ピラミッド形式の巨大な遺跡。入場料金は10USドル)

3遺跡を巡る車のチャーター料金ですが、相場がハッキリとしていません。

自分は交渉してみて170USドルから下がりませんでした。恐らく個人で交渉してチャーターする場合は170ドル前後が相場でしょう。

ただ、1人で乗っても2人で乗っても170USドルなので、友達と行くならば一人頭の金額は安くなります。

英語に不安のある方やカンボジアに慣れていない方、女性だけの旅行の場合は、交渉することや知らないドライバーの車に長時間乗ることに不安を感じるかと思うので、後述するツアーを利用するのがおすすめです。

ツアーを利用する

ツアーであれば、信用できる日本語ガイドと遺跡巡りをできます。

また、最初から料金がハッキリとしているので、交渉するわずらわしさがありません。

プレアビヒアを含め、カンボジアの遺跡を観光するには、遺跡が建てられた背景やモニュメントの意味を理解しておいた方が確実に楽しめます。

ガイドがいれば視覚から得られる情報以外にも様々な知識を教えてくれるので、有意義な観光になるでしょう。また、ガイドは写真係にもなってくれます。

>>>プレアビヒア + ベンメリア + コー・ケー1日観光ツアー【日本語ガイド + 食事 + ホテル送迎付き】

ツアーも人数が多ければ多いほど一人頭の金額は安くなります。

プレアビヒアの入場料金・入場にあたっての注意点

プレビヒアの入場料金は10USドルです。

ただし、自家用車はプレアビヒアの麓までしか入ることができず、寺院がある山頂までのアクセスにはバイクタクシーもしくは乗り合いトラックに別途料金を支払って乗ることになります。

バイクタクシーの料金は5USドル。乗り合いトラックの料金は25USドルです。

自分はバイクタクシーに乗って山頂まで上がりました。

プレアビヒアの料金所

(麓にある料金所。ここで入場料10USドルと山頂までの移動費を支払う)

山頂に上がるバイクタクシー

山頂に上がるバイクタクシー

乗り合いトラック

乗り合いトラック

 

頂上までの道のり

寺院がある山頂までの道中は、急斜面の箇所も多いです。ふんばれる自信のない人は乗り合いトラックに乗ると良いでしょう。

寺院参拝には念のためパスポートを持っていくべし

自分が参拝した時はパスポートの提示は求められませんでしたが、以前まではプレアビヒアに入るにはパスポートが必要でした。

現在ではルールが変わって提示は不必要になったのかもしれませんが、こうしたルールはいつ変わるか分かりません。

せっかくシェムリアップからはるばる来たのに「パスポートがなくて入れませんでした」では笑い話にもならないので、念のためパスポートを携帯して行くと良いです。

寺院参拝にあたっての服装

寺院参拝にあたって特に服装の制限はありません。

自分は短パンにTシャツ、サンダルで入場できました。ただ、神聖な場所なので、特に女性の方は必要以上に肌を露出した服装は避けた方が良いでしょう。

また、標高が高いだけあって地上よりは少し肌寒いので、1枚羽織るものを携帯しておくと良いです。

寺院がある山頂には売店があるので、飲み物等を持参しておく必要はありません。

寺院周辺の売店

(寺院周辺の売店)

プレアビヒアとカンボジア人・タイ人

実は、タイではプレアビヒアは「カオプラウィハーン(Khao Phra Wiharn)」という名前で通っていて、タイ人に「プレアビヒア」と言っても通じないことがあります。

また、タイ人とプレアビヒアについて話すと「あそこはタイ(の領土)だよ」と言われることは少なくありません。

タイ人の中には、プレアビヒア含めカンボジアの一定地域が「フランスに奪われた”失地”」という認識を持っている人は多いのでしょう。

カンボジアもカンボジアで、アンコール遺跡群がある地域名をシェムリアップ「Siem Reap = シャム(タイの旧名)から取り戻したという意味」と名付けたりと、両国のわだかまりは未だ解消していないように思えます。

世界各国で様々な事情のもと領土争いが繰り広げられていますが、プレアビヒアは素晴らしく美しい場所なので、今後入場不可になることがないよう願うばかりです。

もしかすると来年には行けなくなる可能性も0ではないので、シェムリアップを訪れる機会があれば今のうちに足を運んでおきましょう。

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