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日本でもここ数年、「医療」をキーワードに大麻への理解が少しずつ広がりつつあります。しかし、依然として日本の法律において大麻は「違法薬物」であり、その使用は厳しく規制されています。
加えて、海外で進む「医療大麻」の実用化についても、多くの日本人にとっては現実味のない、遠い国の話と捉えられているのが現状です。
ところが2022年、タイ王国がアジアで初めて大麻の使用を合法化したことで、状況は変わりつつあります。観光地としても人気のこの国に、医療大麻による治療を求めて渡航する日本人が少しずつ増えてきているのです。
では、「医療大麻」とは具体的にどのようなものなのか。「医療」と聞いても、長年“悪”として刷り込まれてきた大麻が、実際に人を救うなどと想像できる日本人は多くないでしょう。
今回取材したのは、11年前の交通事故をきっかけに、原因不明の慢性痛に長く苦しんできた30代の日本人男性。
日本の医療機関をいくつも巡っても改善せず、ついには「治療手段がない」と告げられた彼が、最後にたどり着いたのがタイでの医療大麻治療でした。
本記事では、彼が医療大麻に行き着いた経緯と、実際に感じた効果、そして医療大麻に対する意識の変化をリアルに語ってもらいます。
この声は、日本ではまだ可視化されにくいものですが、紛れもなく“いま起きている現実”です。そして、医療大麻によって救われている人が確かに存在するということを、まずは知っていただければと思います。
事故のあと、痛みと孤独だけが残った
今回お話を伺ったのは、X(旧Twitter)で自身の闘病体験を発信しているはいちるさん(@hypetochill)。
2013年、深夜に同乗していた車が大型トラックと正面衝突する事故に巻き込まれ、股関節の脱臼、心臓の圧迫による意識不明状態に。ドクターヘリで緊急搬送されるほどの重体でした。
事故から1年ほど経過した頃から、腹部の鈍痛や首・背中・股関節の慢性的な痛み、強い動悸などの症状が現れ始め、ひどい時には1日中ベッドから起き上がれない日もあったといいます。
その後、5つ以上の総合病院を受診し、レントゲン・MRI・CT・内視鏡・筋電図などあらゆる検査を受けたものの、すべて「異常なし」。「検査で異常が見つからないので、処置できません」と言われ、診察を打ち切られることの繰り返しでした。
ブロック注射や麻酔注射、整体、鍼灸など多くの治療法を試しても、根本的な改善には至らず、最終的には“精神的な問題ではないか”と精神科を勧められるようになりました。
「働きたくても、痛みで動けない。ごく普通の生活を送るつもりだったのに、それが叶わない現実とのギャップに気持ちが折れてしまった」とはいちるさん。
そして2025年1月、ようやく「前皮神経絞扼症候群」と診断されるも、医師からは「治療手段が尽きた」と告げられます。
これが、はいちるさんの心をさらに追い込むことになりました。
「痛みは他人に伝わらない」そう実感させられる出来事も少なくなかったといいます。痛みが原因で約束を守れず友人に嫌われたり、働けないことで“社会性がない”と責められたり。
いつしか、人間関係そのものから距離を取るようになっていったと語ります。
「あの重さが、ふっと軽くなった」──初めての“大麻体験”
はいちるさんが初めて大麻成分に触れたのは2021年。
当時、日本では「HHC(ヘキサヒドロカンナビノール)」という大麻由来の合法成分(※現在は規制対象)が販売されており、VAPEリキッドなどの形で市販されていました。
それまで大麻は未経験だったはいちるさんですが、「これまでの治療では効果がなかった」「精神的にも限界を感じていた」という背景もあり、藁にもすがる思いでHHCを試してみることに。
使用してみると、事故による慢性的な神経痛やストレスの影響で起きていた感覚過敏(暑さ・寒さ・うるささ・痒みなど)がスッと和らぎ、ずっと圧迫されていたような体の重さが、ほんの少し軽くなったように感じたといいます。
「痛み自体は残っていたんですが、“痛みだけ”に意識を持っていかれず、久しぶりに気持ちを緩めることができた。
家事や仕事を“やってみよう”と思えるくらいには、気持ちが前向きになれました。」
HHCには、いわゆる「ハイ」や「精神的なリフレッシュ感」はあるものの、離脱症状や強い副作用は感じなかったといいます。
痛みの症状を完全に忘れさせるわけではなかったものの、日常生活に必要な行動をとる“余裕”が生まれた──それがはいちるさんの実感でした。
しかし、その後HHCは日本で規制され、同様の成分も次々と禁止対象に。
合法成分であるCBD、CBN、CBGなども試しましたが、はいちるさんにとってはHHCのような効果は感じられませんでした。
「CBDも試しましたが、HHCで感じたような“感覚の軽さ”や“前向きな気持ちの回復”までは得られませんでした。あのときの実感がなければ、医療大麻のためにタイに行こうとは思わなかったと思います。」
この体験が、医療大麻の可能性に本格的に目を向けるきっかけとなり、はいちるさんはついに「タイへ渡航して本物の医療大麻を使ってみる」という選択をします。
タイで医療大麻を処方されるまでの流れ
はいちるさんが訪れたのは、バンコク中心部にある「KANA WELLNESS CLINIC」という大麻クリニック。

KANA WELLNESS CLINIC
事前予約は不要で、飛び込みでの受診が可能。用意したのはパスポートと、日本で使用している薬が記載されたお薬手帳のみでした。
受付では、スマートフォンのGoogle翻訳を使ってスタッフと英語でやり取り。これまでの病歴や症状を説明すると、ショップに併設された診察室に案内され、医師による問診を受けました。
「神経痛(nervous pain)がある」と判断され、すぐに医師署名入りの診断書が発行されました。そこからTHCオイルと乾燥大麻の処方がスムーズに提案されたといいます。
処方された内容と価格は以下の通り
- 診断書:無料
- THCオイル:1250バーツ(約5,000円)
- 乾燥大麻(1g):800バーツ(約3,300円)
- 所要時間:診察から購入まで約1時間

実際に処方されたTHCオイル
オイルの使用方法については以下のように説明を受けました。
「寝る前に1滴から始めてください。効果が感じられたら、2滴に増やしても問題ありません。神経を鎮める作用があるので、日中の使用は避け、車の運転も控えてください。また、オイルは瓶ごと日本に持ち帰ることはできません。」
乾燥大麻については、日中の使用も問題ないとのことですが、同様に運転はNGと伝えられました。
はいちるさんはこう語ります。
「これまで日本でも1回6,000円の鍼治療や、2万円の整体など高額な保険外診療をいくつも経験してきました。それに比べると、タイでの医療大麻は“生活が少しでも楽になるなら安い”とすら感じました。」
医療大麻がくれたのは、痛みの軽減ではなく“行動する力”だった
医療大麻に対して、はいちるさんが最も期待していたのは「痛みそのものがやわらぐこと」。
しかし、実際に使用してみた結果、痛みの強さや頻度にはほとんど変化はなかったといいます。
「結論から言えば、痛み自体を遮断するような効果は感じられませんでした。」
けれど、“QOL(生活の質)”という意味では、はっきりと違いがあったと語ります。特に集中力や意欲の面で、大麻を使用した日は生活の立て直しがしやすくなったそうです。
「私は10年以上、毎日毎秒、強い痛みに意識を支配される生活を送ってきました。
ノイローゼのような状態で、仕事にも食事にも全く集中できず、何をするにも困難だったんです。」
「でも医療大麻を使うと、痛みがあっても“行動を起こす余裕”ができました。
例えば、仕事に取りかかる、食事を用意する、外に出て体を動かすといった“生きるための基本行動”が、少しずつ戻ってきたんです。」
痛みがなくなったわけではありません。けれど、「何もできない状態」から「少しずつできる日常」へ──。
「完全に元の生活に戻れるわけではない。でも、“ゼロだった日常”が、“少しでも前に進める日常”になった。医療大麻には、そんな力があると実感しました。」
不安だった“大麻の影響”。実際に使ってわかったこと
日本で「大麻」と聞くと、真っ先に思い浮かぶのは「副作用」や「依存」のリスクかもしれません。「ダメ。ゼッタイ。」という刷り込みもあって、大麻=強い薬物というイメージが根強くあります。
最初は不安を感じていたはいちるさんですが、実際に使ってみると「副作用」と感じるような反応はほとんどなかったといいます。
「副作用というほどではないですが、喉がとても乾くので、水を多く飲むようになりました。吐き気や体調不良、頭痛などの症状は特にありませんでした。」
ただし、大麻にもさまざまな品種やTHCの含有量(=強さ)があり、効果もそれぞれ異なります。
中には、不安感や不快感をもたらす可能性のある品種もあるため、注意が必要です。
そのため、本記事の執筆者としては、これからタイで大麻を試す場合は、経験者と一緒に、リラックスできる安心な環境で行うことをおすすめします。
不安がある場合は、信頼できるバドテンダー(販売スタッフ)に相談しながら選ぶのが安心です。
必要とする人がいる、それだけのこと──医療大麻をめぐる現実
はいちるさんは今もなお、日常生活が困難なほどの強い痛みとともに生きています。しかし、医療的・社会的なサポートを受けることができない状態が何年も続いていると語ります。
「難病や障がい者としての認定も受けられず、社会的には“健常者”として扱われます。長く続く闘病も“無職期間”とされるのだと思うと、ぞっとする気持ちがあります。自分は、社会の“ミゾ”に落ち込んでしまったような感覚で生きているんです。」
2024年12月、日本では「大麻使用罪」が新設され、大麻に対する規制はさらに強まっています。
一方、海外では医療や研究目的での合法化が進んでおり、その扱いの差に強い違和感を持っていると言います。
「私は、医師に『もうこれ以上診ることはできない』と言われた末に、自分の体と向き合う中で医療大麻に辿り着きました。だからこそ、“大麻=危険・有害”と決めつけるような見方に、強いギャップを感じています。」
もちろん、医療大麻にも乱用や依存という点でのリスクがゼロとは思っていません。
しかし、それを理由にすべてを否定するのではなく、もっと中立的・科学的な視点で議論がなされるべきではないか──。
はいちるさんはそう考えています。
「必要な人に、必要な形で届く社会に。日本でも、そんな未来が来ることを願っています。」
「正直、今でも周囲には医療大麻のことを言い出せないでいます。これまでの経験や、日本の一般的な“大麻”のイメージを思うと、どうしても後ろめたさが残るんです。
理解してもらえなくてもいい、そう思えるようになったけれど、それでもやっぱり…言えないんです。」
それでも、伝えたいことがあるといいます。
「海外では医療として使われている国が実際にあり、“持病の苦しみから解放されたい”と、純粋に願う人が医療大麻に行き着いている──その事実だけでも知ってもらえたら嬉しいです。」
大麻は本当に“悪”なのでしょうか?
良いか悪いかを語る前に、それを「必要としている人がいる」という事実に、まず目を向けていただけたら幸いです。
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