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8月、タイは雨季の真っ只中です。空は晴れているのに波は高く、海水は茶色く濁っています。
カオラックのビーチで、筆者は人生で初めてサーフボードの上に立とうとしていました。
最初はワクワクしていました。ですが海に入ると、そんな余裕は一瞬で消えます。板の上でバランスを取るだけで精いっぱい。何度も投げ出され、濁った波に体ごと押し戻されます。
サーフィンは、見ているよりずっとハードでした。
カオラック。
タイ在住者から「旅行先として良い」と何度か聞いていた場所です。ただ筆者にとっては、プーケットの影に隠れた土地。名前は知っていても、実像はほとんど知りませんでした。
そんなカオラックを訪れたのは、2026年8月。タイ国政府観光庁(TAT)が主催する4日間のメディアツアーに参加するためです。
掲げられたコンセプトは「Healing is the New Luxury(癒しこそ、新しいラグジュアリー)」。
数あるタイの旅先のなかで、なぜカオラックが選ばれたのでしょうか。
「南国リゾート」から「癒しの目的地」へ——TATの狙い
タイ南部パンガー県、アンダマン海に面したビーチリゾート「カオラック」。シミラン諸島などへの玄関口として知られる一方、派手なナイトライフはなく、周辺には国立公園や滝、マングローブ林など豊かな自然が残っています。

今回のメディアツアーには、日本のほか、オーストラリアやイギリスのメディア・インフルエンサーが参加。関係者にはインドネシアや台湾からの参加者もおり、TATが国際的な規模でこのツアーを展開していることがうかがえました。
近年のTATは、ウェルネスを軸にした観光戦略に力を入れています。ストレスや燃え尽き症候群が世界的に広がるなか、旅行者は単なる「休暇」ではなく、心身の回復を求めている。これがTATの見立てです。
ツアー中の夜、カオラックで開かれたネットワーキングディナーでも、TAT観光商品部門のエグゼクティブ・ディレクターから今回のコンセプトが改めて示されました。
「Healing is the New Luxury(癒しこそ、新しいラグジュアリー)」。


ネットワーキングディナー。世界中から合計18名のクリエイターが参加した
実際、4日間の行程にはサーフセラピーをはじめ、瞑想、森林浴、占いなど、さまざまな「癒し」が組み込まれていました。
興味深かったのは、その舞台としてカオラックが選ばれたことです。今回の旅では、プーケットはあくまで空の玄関口。そこからパンガー県へ移動し、4日間の大半をカオラック周辺で過ごします。世界的なリゾート地であるプーケットではなく、なぜカオラックだったのか。
その理由は、実際に用意された「癒し」を体験していくうちに、少しずつ見えてきました。
カオラックで受けた「サーフセラピー」、何度も波に投げ出されて
その一つが、サーフセラピーでした。サーフィンとセラピー。筆者には、まったく想像がつかない組み合わせです。
しかも筆者は、サーフィン自体が人生で初めて。まず教わったのは、波に立つ基本的な方法と安全対策です。


サーフボードの上に立とうとしては、何度も海に投げ出されます。濁った波に体ごと持っていかれ、無意識に目線が足元へ落ちる。そのたびバランスを崩して、また海へ落ちました。
この時点では「セラピー」という言葉に、かなり懐疑的でした。海水を飲み、体力を削られるばかりで、癒やされている実感はありません。
「目線はビーチへ」
インストラクターに繰り返し言われた言葉です。半信半疑のまま、恐る恐るビーチへ目を向けると、意外なほどスッと立てました。

波にうまく乗れた瞬間には、インストラクターや周りの参加者から「Good! Professional!」と冗談交じりの声が飛びます。単純に、うれしいものでした。
何度か挑戦するうちに、「次の波にどう乗るか」だけしか考えなくなっていました。
懐疑的だったはずの頭から、いつの間にか「セラピー」という言葉自体が消えていたのです。
気づけば、純粋にサーフィンそのものに夢中になっていました。
頭にあったのは、目の前の波のことだけです。
波の高揚から一夜明けて、森と滝の静けさへ
サーフィンの翌日、向かったのはカオラック・ラムルー国立公園です。前日は海と格闘していたのに、今日は森を歩くという。ずいぶん忙しい「休暇」だと思いながら、歩き出しました。


森に入ると、まず空気が変わります。見慣れない木々が生い茂り、緑の匂いが濃い。森林浴自体、思えば5年ぶりくらいです。バンコクで暮らしていると、これほど濃い緑の匂いを感じる機会はありません。
裸足になり、丸太の橋で川を渡ります。足の裏には木の感触、その下からは水の音。一歩ずつ慎重に進みながら、こんなに無防備に自然の中を歩くのは、いつぶりだろうと考えていました。

森の奥へ進むと、滝にたどり着きます。水は想像していたよりずっと透明で、正直、前日の海よりもきれいでした。
昨日は濁った波に何度も投げ出されたのに、目の前にあるのは透き通った水。同じ「水」でも、受ける印象はまるで違います。
迷わず、水の中へ入りました。


足元は石で不安定です。よろよろとバランスを取りながら進むと、水はひんやりとしています。サウナの水風呂よりは暖かく、プールよりは少し冷たい。その温度が、ちょうど気持ちよく感じられました。
体を水に預けると、地元のガイドが支えてくれます。手足の力を抜き、ただ浮かぶだけ。

昨日は自分の力で波に立とうとしていたのに、今日は誰かに委ねている。その落差が、少し可笑しくなりました。
最後は参加者みんなで手をつなぎ、滝壺に輪をつくって浮かびます。

誰も何も言いません。
ただ水の音を聞きながら、体を預けている時間でした。
一つ一つは、他所でもできる。それでもカオラックだった理由
サーフィンだけを見れば、波が良ければ他の場所でもよかったはずです。実際、雨季のカオラックの海は、決してベストなコンディションではありませんでした。
けれど、体験したのはサーフィンだけではありません。森を歩き、滝に打たれ、瞑想に身を委ね、地元の食材を使った料理を味わう。波に乗った翌日には、そんな時間が待っていました。



オーガニック食材を使って行った料理体験・ファームトゥテーブル
一つ一つを切り取れば、他の場所でも体験できます。森林浴も、滝も、瞑想も、タイの他のエリアや他の国にもあります。
違ったのは、カオラックでは、それらが一つの旅としてつながっていたことです。
海で体を動かした翌日には森へ入り、滝で力を抜く。地元の料理を味わい、静かなリゾートへ戻る。それぞれが車で数十分の範囲にあり、長い移動で旅の流れが途切れません。
TATが掲げた「Healing is the New Luxury」は、特別な体験を一つ売るための言葉ではなく、カオラックで過ごす時間そのものを指しているように思えました。
一方で、正直に書いておきます。今回の旅で、街歩きやナイトライフ、いわゆる「映える」瞬間はほとんどありませんでした。にぎやかさや刺激を求めるなら、プーケットのほうが向いています。回復と静けさを求めるなら、カオラックです。
「プーケットの近くの、なんだか良さげなビーチ」。訪れる前の筆者のカオラックへの印象は、その程度でした。今は違います。タイに、もう一つの目的地ができました。
カオラックで訪れた施設
サーフセラピー|Memories Surfhouse

サーフィン初心者〜中級者向けのレッスンを提供するサーフスクール。
森林浴・滝|ラムルー国立公園

タイ南部・パンガー県に広がる、滝と森林浴が楽しめる国立公園。
- 開放時間:8:30〜16:30
- 駐車場:あり
- 位置情報:GoogleMap
フローティング瞑想|Devasom Khao Lak

ヒマラヤのシンギングボウルを用いたサウンドセラピー。
リラクゼーション・トリートメント|La Vita Sana

タイ伝統医学と中国伝統医学を融合させた独自の療法を提供するウェルネスセンター。温泉やスパによる療法を体験できる。
宿泊施設|La Solaya Khao Lak

アンダマン海を望むカオラックのラグジュアリーリゾート。プールやスパを備え、静かな滞在を過ごせる。
カオラックへ行くには
バス
バンコクの南バスターミナルから、プーケット行きまたはパンガー行きのバスでカオラック下車。所要時間は約13時間です。プーケットタウンの長距離バスターミナルからなら、約2時間で着きます。
タクシー
プーケット国際空港からは、タクシーで約1時間20分です。
旅のベストシーズン
シミラン諸島やスリン諸島でのダイビングが目的なら、両国立公園が開いている11月〜4月中旬がおすすめです。5月から10月はモンスーンの影響で波が高くなり、この期間、両国立公園は閉鎖されます。
一方で、この時期の内陸部は緑が濃く、水量も豊かな季節。スコールはあるものの、終日降り続くことは多くありません。宿泊料金もハイシーズンより抑えめになるため、自然や森を楽しみたい旅行者には、この時期こそ狙い目かもしれません。




