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大麻品評会「1st Ganja Cup」を立ち上げたPrempaveeさん(右)
タイ東北部のナコンパノム県で大麻を育てるPrempaveeさんは、かつて品評会への出品を断られたことがあります。その大会が対象としていたのはインドア栽培の大麻だけ。アウトドアで育てていた彼女の大麻は、出品の対象外だったのです。
「ここはタイ。太陽の国なのに、なぜインドアだけなのか」
その疑問から彼女が立ち上げたのが、アウトドアのオーガニック栽培を対象とする品評会「1st Ganja Cup」です。2023年に月例の大会として始まり、日本人栽培者が参加して受賞したこともあります。

2025/26年大会の受賞者。日本のIzumo Greenも受賞した
では、彼女はなぜアウトドア栽培にこだわるのでしょうか。その原点には、家族から受け継いだ農場と、故郷の歴史がありました。
父の死を機に帰郷。故郷はタイスティックの産地だった

タイ東北部、ナコンパノム県ポンサワン郡のポンボック地区。Prempaveeさんの大麻農場は、この村にあります。
赤土の道を進むと、竹の柵の向こうに人の背丈を超える大麻が伸び、パパイヤの木も並んでいます。これまで訪れたインドア農場とは異なり、庭先の畑を思わせる風景でした。

この農場は、何世代にもわたって家族が受け継いできた土地です。しかし、彼女が生まれた頃には大麻はすでに違法となっており、家族は主に米や果物、野菜を育てていました。収入は乏しく、彼女は街で働きながら、家族に仕送りをしていました。
彼女が大麻農家になる転機となったのは、父親の死です。葬儀のために帰郷した彼女は、農地を人に貸し、再び街で働くつもりでした。ところが、ちょうどその頃、タイで大麻の解禁が発表されたのです。
「最初は信じられませんでした。でも、大麻関連で収監されていた人たちが釈放され、保健大臣が苗を100万本無料で配ると発表した。それを見て、うちの農場にも可能性があるかもしれないと思ったんです」

大麻について調べ始めた彼女は、故郷の意外な歴史を知ります。この一帯は1960〜70年代、タイ産大麻「タイスティック」の主要産地の一つでした。当時はタイ産大麻が欧米などへ大量に輸出されており、今も代々栽培を受け継いできた農家がいるといいます。

竹ひごに大麻の花穂を巻きつけた形で知られる「タイスティック」
彼女はすぐに仕事を辞め、大麻農家として生きることを決めました。
「自分の農場で働きながら、自分と家族の暮らしを支えていける。大麻にそんな可能性を感じたんです」
見た目だけでは測れない、彼女が考える「良い大麻」
アウトドア栽培にこだわるPrempaveeさんにとって、良い大麻とは何か。彼女は、評価はあくまで相対的なものだと話します。香り、見た目、効能など、何を重視するかは使う人によって異なります。その目的に合ったものこそが、良い大麻だという考えです。

ただ、市場で重視される品質基準は、必ずしも中立とは限りません。人工照明などを用いてインドアで栽培された大麻は、花穂の密度が高くなる傾向があります。現在では、そうした見た目も品質を評価する際の基準の一つになっています。
彼女によれば、その背景には大麻が禁止されていた時代の事情があります。栽培を隠しやすく、環境を管理しながら生産できるインドア栽培が選ばれ、その花の形状が市場の評価基準の一つになっていったといいます。
「隠す必要がないなら、太陽の下で育てるほうが安くて、味もいいと感じています。太陽の光は、室内では再現できないんです」

ただし、花穂の密度が高いからといって、品質が優れているとは限りません。湿度の高い環境では、密集した花穂の内部に湿気がこもり、病害のリスクが高まるためです。
大麻の病害を扱った2021年のレビュー論文でも、花穂の形状や密度と灰色かび病へのかかりやすさとの関係が論じられています。
その点、花穂の密度が低く、風が通りやすい形状は、病害のリスクを抑えるうえで有利に働きます。ところが、花穂の密度や見た目を重視する評価基準では、アウトドアで育った大麻が不利になりかねません。
「太陽の国なのに、なぜインドアだけなのか」。彼女の疑問の背景には、こうした評価基準のずれがあるのです。
だからこそPrempaveeさんが重視するのは、見た目や花穂の密度だけでは測れない品質です。

彼女が大切にしているのは、アウトドアでオーガニックに育てることに加え、収穫物の清潔さや汚染リスクにも配慮すること。そして、その土地で受け継がれてきた品種の個性も、守るべき価値だと考えています。
こうした考えは、地域独自の在来品種「ランドレース」を次の世代へ受け継ぐ活動にもつながっています。
タイの在来品種「ランドレース」を守るには
ランドレースとは、特定の地域で農家などが種を選び、栽培を続けるなかで、世代を超えて受け継いできた在来系統を指します。その地域の気候や栽培環境などの影響を受けながら、長い年月をかけて特徴が形づくられてきました。

タイ東北部のイサーン地方で受け継がれてきた在来系統「Squirrel Tail」
Prempaveeさんによれば、かつてタイスティックの産地だったナコンパノム県には、今も伝統的な大麻の品種を育て続けている農家がいます。
一方、タイでは外国由来の品種や交配種も栽培されています。Prempaveeさんは、外国品種を育てること自体に反対しているわけではありません。懸念しているのは、人気の品種に栽培が偏ることで、地域固有の品種が失われていくことです。

「Mekhong Classic」。Prempaveeさんが、何世代にもわたりこの品種を育ててきた91歳の女性から種を入手し、選抜した在来系統
特定の遺伝的特徴を持つ品種が一度失われれば、似た品種同士を交配しても、元の多様性を取り戻せるとは限りません。「生命とは多様性です」と彼女は言います。
ランドレースは、農作物の遺伝的多様性を保全するうえで重要な資源です。病害への抵抗性や環境への適応性など、将来の品種改良に役立つ特徴が含まれている可能性があります。FAO(国連食糧農業機関)も、農家の在来品種を保全・活用すべき遺伝資源として扱っています。

では、どうすれば守れるのでしょうか。その方法の一つが、種子を保存することです。適切に保存された種子は、産地で栽培が途絶えた場合にも、その系統を再び栽培するための手がかりになります。
ランドレースの特徴は、その地域の気候や栽培環境のもとで、農家が種を選びながら世代を超えて受け継いできたものです。
異なる環境で栽培を続けると、選抜される特徴が変わり、系統の性質にも変化が生じる可能性があります。地域固有の特徴を守るためにも、農家がその土地の太陽の下で栽培を続け、種を選び、次の世代へ受け継いでいくことが重要だと、彼女は考えています。
「伝統的な農家がいなければ、ランドレースも存在できません」
1st Ganja Cupが目指す、農家と在来品種の未来

「1st Ganja Cup」は、インドア栽培の大麻だけを対象とする品評会に対し、アウトドアで育てた大麻にも評価の機会を設けるために始まりました。その後、伝統的な農家が育てるランドレースの部門も新設。大会は、アウトドア栽培の価値を伝えるだけでなく、地域の在来品種と、それを受け継ぐ農家を支える取り組みへと広がっています。
Prempaveeさん自身も、独自の品種を育て続ける年長の農家たちと協力関係を築き、活動を継続するための財団設立について話し合っています。
「私たち自身が生き残れなければ、何かを保存することもできません」

彼女が目指すのは、品評会の開催だけではありません。
Prempaveeさんは、アウトドアでオーガニックに育てた大麻を医療用途でも評価すべきだと考えています。また、大麻は布や紙、バイオ燃料などの原料にもなり得る植物だと語ります。1st Ganja Cupでは、オーガニック農業や遺伝資源の保全に加え、大麻の合法化もテーマとして掲げています。
最後に、日本の読者へのメッセージを聞きました。
「タイも以前は、大麻にとても厳しい国でした。でも、少しずつ変わり、最終的には解放されました。希望を失わないでください」
参考資料
- Zamir K. Punja, “Emerging diseases of Cannabis sativa and sustainable management,” Pest Management Science(2021年)
- FAO, Voluntary Guidelines for the Conservation and Sustainable Use of Farmers’ Varieties/Landraces(2019年)
Prempavee Farmの基本情報
- 住所:282 Moo 10, Ban Phon Charoen, Tambon Phon Bok, Amphoe Phon Sawan, Nakhon Phanom 48190, Thailand
- SNS:Instagram/Facebook
- 公式サイト:Prempavee Farm
Prempaveeさん本人とも交流できる公式フォーラム
1st Ganja Cupの公式フォーラムでは、オーガニック栽培やランドレース、大会の取り組みなどについて、世界各地の農家や愛好家が意見を交わしています。
Prempaveeさん本人も参加しており、日本からの参加も歓迎しているそうです。
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