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2022年、タイはアジアで初めて大麻を事実上合法化した国となりました。
観光客が行き交うバンコク・カオサン通りには、大麻ショップが次々とオープンし、「合法の娯楽大麻」を象徴するような風景が広がるようになりました。
しかし2025年6月現在、その風景が大きく揺らぎ始めています。
タイ政府は娯楽目的での大麻使用に対する規制強化を決定。保健省は6月24日付で「娯楽目的の販売を禁止し、購入には医師の処方箋を義務付ける」との命令を発表し、数日以内に施行される見通しです(※出典:Newsweek Japan)。
さらに、違法商品の取り扱いの有無や、店舗ごとの医療関連書類・ライセンスの確認も厳格に行われる見込みで、現場ではこれまでの状況からの急激な転換が始まっているとの声も上がっています。
では、この急激な方針転換に対して、現場では何が起きているのか。
バンコク・カオサン通りの日本人経営ディスペンサリー「Peach Panties(ピーチパンティーズ)」のスタッフ・Kenさん(@pp_ken_81)に、6月26日現時点での最前線の声を聞いた。

Peach Panties・Kenさん
「エディブルも看板もNG」──現場で始まった新たな規制対応
Kenさんによれば、現場ではすでにさまざまな規制が実際に始まっているといいます。
「まずエディブル(食用大麻製品)の販売が禁止されました。加えて、店舗の外壁にフラワー、エディブル、ドリンクなどの文言を表示することもNGになっています。プリロール(あらかじめ巻かれたジョイント)も、店内で“見える状態”にあると規制対象になる可能性があるとのことです。」

バンコクのディスペンサリーで販売されているエディブル
また、道沿いに出す看板やプロモーションPOPの掲示も全面禁止に。Peach Pantiesでは、アイスやドリンクもカウンターで個別対応とし、外には一切の表示を出していません。
警察とFDAが一斉巡回へ 営業を控える店舗も
さらにKenさんは、本日(6月26日)に予定されている“行政検査”についても言及しました。
「今日(6月26日)は、FDA(食品医薬品局)と警察がカオサン通りの大麻ショップを巡回し、検査を行う予定です。確認されるのは、①違法な商品が置かれていないか、②医療関連の書類や営業ライセンスが正しく揃っているかの2点だそうです。
多くの店舗が、リスクを避けるために営業を見合わせるかどうか慎重に検討しているとのこと。当店(Peach Panties)も、状況を見ながら慎重に対応する予定です。」
現場では、検査の具体的な基準や対応のバラつきに不安を感じている店舗も多く、「どこまでがNGか分からない」空気の中で対応を迫られているのが実情のようです。
規制は一時的か、それとも恒久的か?
Kenさんによれば、今後の展開については現場レベルでもまだ見通しが立っていないといいます。
「正直、まだどうなるのか分からないというのが実情です。
数日間で元の状態に戻るのか、それとも完全にルールが書き換わってしまうのか。他の店舗の動きを見ても、皆探り探りで様子を見ている状態です。」
規制再導入の背景と今後の見通し
2022年、タイはアジアで初めて大麻を事実上合法化しましたが、その後の2年間で急速に店舗が増加し、未成年への拡散や乱用、精神疾患の増加といった社会問題も発生しました。医療目的という建前とは裏腹に、実態は娯楽利用が中心だったことへの批判が高まり、国内では「一度見直すべき」との声が強まっていきました。
さらに、2023年の総選挙を経て誕生した新政権(タイ貢献党主導)は、それまで大麻解禁を推進していたタイの誇り党とは異なり、大麻規制に慎重な立場をとっています。この方針転換によって、政権内でも政策の方向性が揺れ動き、連立の枠組みからの離脱も含めた政党間の対立が再燃。こうした政治的背景のもとで、再規制の動きが一気に進みました。
現在、保健省は大麻の花穂(乾燥大麻)を「管理対象ハーブ」に指定する新たな告示を発出。これにより、以下のような制度変更が見込まれています。
- 娯楽目的での使用・販売は禁止され、医師の処方箋がある場合のみ使用可能に
- 販売店は保健当局の許可を再取得し、在庫・取引記録などの詳細な報告が義務化される
- インターネットや自動販売機、公園や寺院などでの販売・広告は禁止
- 店内喫煙スペースの提供も原則禁止(医療提供目的を除く)
これらの規制は、「包括的な大麻管理法が整備されるまでの暫定措置」とされており、今後はより明確に医療目的に限定された制度設計へと移行していく見通しです。
ただし、今回の再規制はあくまで現政権の方針によって行政レベルで進められている段階であり、法律として正式に整備されたわけではありません。また現在、政権内では対立や混乱も見られ、今後の政権交代や国会での動向次第では、再び政策が転換される可能性も残されています。
そのため現場では、「このまま完全な禁止に進むのか、それとも数ヶ月で緩和されるのか、まだ読めない」という空気が強く、“様子見”の慎重な対応が続いているのが実情です。
なお、筆者が6月26日に自身の近所にあるディスペンサリーを訪れた際には、通常通り大麻を購入することができました。
一方で、同じバンコク在住の日本人の友人からは「購入を断られた」との声もあり、対応が店舗によって異なる状況が見受けられます。
これは、今回の規制がまだ正式な法施行前の「行政告示」段階であることや、店舗側でも解釈や運用を模索している過渡期にあることが背景にあると考えられます。